第4章

「誰もいないの」

白鳥日菜はしゃくり上げた。

「お母さんは家賃を払うために三つも仕事を掛け持ちしていて、私の問題にかまっている時間なんてないんです」

完璧な被害者の物語だ。家族の支えもなく、金銭的な問題を抱え、世界で完全に孤立している。この場にいる女性は誰もが彼女に共感するだろう。そして男性は誰もが彼女を救いたいと願うはずだ。

春美さんは、あからさまに心配そうな顔で見守っていた。

「あのかわいそうな子。あれほど必死だったのも無理はないわ」

橋の周りの野次馬はさらに増えていた。人々は背景の「救出劇」と一緒に自撮りをしている。十代の少女たちが数人、浅野安樹と白鳥日菜の近くでダ...

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